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驟雨の標

困った人の長話(記述言語版)

「ブラック」という概念と労働市場のシステム的限界

元より「ブラック企業」や「ブラック残業」という概念に対して真っ向から反対はしていないし、さりとて賛成もしていないのですが、ここ数日で考えが一気に明確化されてきたので書き綴っておくことにします。

結論から言えば「そこに個々人の自由意思があるかどうか」で判断すべき問題であると思います。

 

どう足掻いても確実に残業が爆発的に増えてしまう業種というものは存在して然るべきかと思います。
科学屋の業界なんてまさにその最大の例です。日本で言う所の「ブラック」なんて超越していて、ある科学の分野でその道の第一人者として成立しているような科学者・エンジニアは基本的に休みの日もアイディアを練ったり論文を読み漁ったりしていて、はっきり言って年中無休のスーパーブラック労働を普通にこなしています。
あるいは大企業の経営幹部なんかは、経済の状況や自社のサービスの進展状況に応じて年中無休で困難な決断を迫られる立場にあります。真夜中に眠っていたとしても「株価が大暴落しました!」と電話がかかって来ればベッドから跳ね起きて即応しなければならないのです。
しかし彼らはそれに対して文句を言いません。何故ならば彼らには年中無休で人生を労働に捧げる対価として、莫大なお給料だったり巨大な権利だとかを与えられています。一生かけても使い切らないような莫大な資産と資金で彼らは日々の食事から家庭環境まで全てをアウトソーシングし、最上級のサービスを受ける機会を無条件に手にする事ができます。そのような対価があって初めて彼らは年中365日24時間を労働に捧げる事に同意しています。

立ち返って高給取りの科学者様でもエンジニア様でも企業の大幹部様でもなく、一般の平社員の事を考えてみましょう。彼らは普通の給料と普通の権利を手にする事と引き換えに普通の時間を労働に捧げる事に同意したにすぎません。当然彼らには自分で幸せな家庭を築き上げる権利があるし、趣味や余暇を楽しむ権利を持っています。これは上述のスーパーブラックな人々とは全く対照的であり、スーパーブラックな人々がどれだけ札束を積み上げても手に入れられない物を手に入れる権利が一般の労働者には用意されていなければならないのです。

ここから企業と労働者の関係を再考すると、次のようになります。

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企業は労働者が本来持っている権利や時間を買い取る。労働者は本来自らが持っているはずの権利や時間を企業に対して売却する事でお金を得る。これは取りも直さず一般の商契約と全く同様の概念として「労働」が成立する事を示します。このように「権利・時間(≒労働力)」を商品として取引が行われれる市場の事を「労働市場」と言います。

このように考えれば、「ブラック企業」は契約としての労働を踏みにじる存在であると理解されます。これは労働者との間の契約によって成立する「企業」ではなく、何らかの封建制にそって成立する組織であり、その実態は奴隷制王朝と極めて似たり寄ったりの存在であります。

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それではブラック企業のように長時間労働を要求する企業・業態はこの社会では存在しえないのでしょうか?
実はそんな事はありません。労働基準法に記載されているよりも長時間の勤務が必要な業務や業態だって間違いなく存在します。その場合にはより多くの賃金を支払う事で労働者を繋ぎとめればいいのです。

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ではこれで問題解決ですか?
いいえそんな事はありません。私がもっとも重要視する「自由意思」は、この後の話に関わってきます。

労働者には本来、よりよい労働条件の環境へ移動する権利があります。これは契約の一つとして労働と言う概念を捉えれば至極当たり前の事です。商売の上でもしも取引先企業が「来週からこの商品の値段を10倍にします」と通告して来たら、普通の神経の持ち主ならば「即刻貴社との取引は打ち切らせていただきます」となるはずです。それと全く同様の「取引を打ち切る権利」が労働者にもあります。

 

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労働者には本来このようにより良い労働条件を目指して移動するための権利があります。このように労働者が移動することでブラック企業からは人がいなくなってしまいます。企業はより優秀な労働者を引き止めるために労働条件を改善し、その結果市場全体でブラック企業が根絶されるという論理が機能し始めます。
ところが現在の日本の労働市場には、このための権利を保障する規定が面白いぐらい全くありません。企業はいつまで経っても新卒採用に異様な程こだわり続け、ブラック企業として有名なユニクロ中途採用を始める始末。

f:id:weaverbird:20150128185540j:plain労働者は一度企業から見放されてしまったらもうどう足掻いた所で転落人生が決定してしまうので、例え給料が全く出なかったとしても企業の為に命を懸けて奴隷労働に勤しみます。

ここまで議論すれば大よそ私の意見が分かってもらえるかと思います。要は、
労働者の自由意思による移動が成立しない事こそが最大のブラック
なのです。これは企業の側に一方的に有利なシステムとして労働市場が組み立てられている事を意味しています。この結果、企業が例え社員の給料をゼロ同然まで下げても社員は別の企業に移る事もできず、奴隷労働に励みながら極貧の中で生きる以外になくなります。

ブラック企業が云々という話が盛り上がっていますが、はっきり言って
システム的にブラック企業は永久に不滅です!(泣)
そこで私としては先ず何よりも、市場のシステムの改善こそが第一だと考えます。これが無くてはブラック企業を根絶する事はまず不可能です。その上で優秀な労働者が長時間働くために、高い基本給と完璧な残業代の補償があるならばブラックな労働条件だったとしても大歓迎です。何故ならばそこには労働者の自由意思で企業を離れるという選択肢がいつでも存在しているためです。
そうなってくれれば企業としては優秀な労働者に生産性の高い仕事を長時間続けてもらえるため業績も上がるし、労働者としても働けば働いた分だけ沢山お金がもらえるならばスキルアップしてもっと効率的な仕事を長時間やれるように努力しようという動機が生まれます。このようにシステムが整備されて初めて「競争力の高い社会」というシステムが象られるのです。
それを考えもせずにただ単純に時流に乗るだけで「ブラック企業反対」を叫ぶのは私は嫌です。ここまでの議論を見ていただければわかると思いますが、ただ単に労働時間を短くすれば全て解決するなんて事はなく、企業と労働者の双方がより高い競争性を求めて企業努力とスキルアップの努力を続ける事だけが本質的な解決となるのです。

 

これと同様の意見は色々見ますけど、何故か皆一様に「解雇規制を緩和して企業が解雇しやすくする」という話しかしていません。それでは車の車輪が足りないのです。解雇規制を緩和するという企業側の立場にたって話をするならば、労働者がスキルアップし再就職できるようにするためのルートを社会の側が用意しなければフェアな議論とはなりません。それを考えずに解雇規制を緩和するだけであれば、労働市場は処理不可能な程大量の失業者で溢れかえる事となるでしょう。その瞬間に正規雇用非正規雇用は等しく貧しい存在となり、ますます激しくブラック企業がのさばる事態に繋がるだけです。