驟雨の標

困った人の長話(記述言語版)

JIMTOF2014

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機械工学、奥が深い・・・。

JIMTOF2014とは日本国際工作機械見本市と言いまして、日本の工作機械系の各メーカーがそれぞれに腕によりをかけて作った最先端の工作機械や工作システム、またその材料やパーツなどを持ち寄る機械工学系の祭典です。世界73ヶ国の国や地域から工作機械・精密機械・システムメーカーの出展があり、日本の機械工学技術に関心を持つ海外のお客様を含め毎年十万人以上が来場し、技術系の話題だけでなくその場で新しい機械の商談がまとまったりする事もあるそうです。化学系の私がそんな所に参加しているのは、山梨県に本社がある黄色がテーマカラーの某世界的電子機器メーカー様の招待券を父が二人分持ってきたためです。

化学系と言っても実際に我々化学屋が作った材料や薬品が商品化されて生産されるのは機械尽くしのプラントです。今はそんなつもりは無くとも、やがて企業や研究機関で機械工学の関連する問題を取り扱う事だってあるでしょう。なれば隣接分野に目を向けて知識のすそ野を広げておく事は良き教養となるはずです。

 

とまあ、前置きはこんなところにして・・・

 機械工学スゲー!!

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日本の技術レベルの高さが良く分かる展示が目白押しでした。次から次へと登場する意味不明で驚異的な機構とカラクリの数々、そしてそれを正確かつ精密に、しかもグラフィカルに分かりやすく制御するシステム・ソフトウェアの数々、そこから作り出されるF1レースカーや航空機部品のような最先端の工業製品、どれをとってもワクワクが止まらない世界が東京ビッグサイトに広がっていました。

時間さえあれば何時間も掛けてじっくり見て回りたい所だったのですが、今回は父が色んな企業のエンジニアの方々と技術ミーティングをするのに付いて行った都合上、あまり多くを見て回る事はできませんでしたが、それでも記憶に残った物は山ほどあります。

 

さて、記憶に残っている中でも最強だと思ったものを一つここに紹介しておきます。愛知県に本社を置くヤマザキマザック株式会社様のプロダクトです。

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ここの展示は非常に機械がカッコよかったです。工作機械は工場に並べて置いてその場でガリガリ使うものですが、だからって見た目がテキトーで良いわけがない!という感じの機械愛があふれるカッコいい機械が目白押しです。

技術的なレベルも非常に高いです。他を見た限りではどこもそういう事を提唱していないですが、この会社は"DONE IN ONE"(ダン・イン・ワン:工程集約)をコンセプトとして掲げているようで、「色々な作業を一台の機械でやれるようにしよう!」というのがテーマのようです。確かに切る・削る・盛り上げる等々の様々な作業工程を一台の機械だけでやれれば、省スペース・省コスト・ワークの時間短縮にもつながりますね。

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ほらあ~カッコいいでしょ?

この機械はVTC-530/20 FSWという最新鋭のマシンです。化学屋としては聞き捨てならない「摩擦撹拌接合」という非常に面白い技術が使われています。

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二種類の違う種類の金属や材料の接合部分に高速回転するプローブを貫入し、それを高速で回転させる事で二つの金属との摩擦熱が発生、それによって軟化した金属が塑性流動を起こすことで二つの材料を溶接のようにくっ付ける事が可能なのだとか。

このマシンでは更に接合して作ったものを切削加工して、好きな形にすることができるのだそうです。二種類の材料を使って何かモノを作る場合には、これまでは別々に加工したものをくっ付ける方法が一般的だったわけですが、これならこのマシン一台で全てできちゃいます!まさに省スペース省コストの最先端を走ってるわけです。

(※これを見て私は「回転数をもう少し下げて高分子材料のガラス転移点に合わせれば金属材料以外にも樹脂とかに応用できるんじゃないか」とか延々考えていました。化学屋が手を加えれば更に幅が広がりそうなマシンです)

 

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こんなものもあります。これはINTEGREX i-400AMというマシンで、化学屋ならば誰もが一度は聞いた事があるだろう3Dプリンタと切削加工技術を組み合わせたもので、金属材料を3Dプリンターのように積層化して盛り上げ、それを仕上げに細かく切削して複雑な形状を作り上げる事ができるとか。

3Dプリンターって化学屋の世界だと有機系の高分子とか光硬化性樹脂とかのイメージでしたが、よくよく考えれば金属だって液化させれば3Dプリンターと全く同じ事は十分実現できますね。これは目から鱗が落ちる思いでした。

 

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最後はCNC装置。化学屋の世界だけを見ているとそんな言葉は出てこないので、CNCとはなんぞやって感じですよね。この機に父に解説して貰ったところ、CNCとは"Computer Numerical Control"の略だそうで、ざっくり簡単に説明すると、これまで紹介してきたような工作機械をコンピュータ制御するためのシステムの事をCNCと呼ぶのだそうです。

削る・切るような切削加工から物品・材料の輸送などのあらゆる工場システムを司る工作機械たちですが、当然のことながらその制御には極めて正確な数値制御が必須です。正しい位置に穴を開けて、正しいタイミングで材料が補給できなければ製品の品質管理が成立しなくなってしまうためです。CNCはそういった「数値的な制御」を行うための機能に特化したコンピュータです。

このCNC装置ではそれらの、一度聞いただけでは非常に難しそうな操作をより簡単に、スマホ感覚で制御する事を目的にしています。実機の動作する所を見ましたが、確かにスマホ感覚であらゆる複雑加工の3D図面や装置の動作速度などを直感的にコントロールできるのは画期的でしたね。他者のCNCも見ましたが、UIが一番洗練されていたのはこのCNCだと思います。

 

完全にヤマザキマザック株式会社様の宣伝と化してしまいましたが、こういう面白い機械を工場で実際に使える機材として開発してくれる企業が日本にはまだまだたくさんあります。日本企業の凋落やらものづくりの敗北やら色んな悲観論が囁かれる昨今ですが、少なくとも工場で使う産業用機材の業界では日本はまだまだ世界に引けを取らない技術を持ってるんだなと実感しました。

他にも海外のメーカーなどで金属をすごい速度で削り取る機械やら、削り取る際に発生した削りカスを再利用できるシステムだとか、製品を加工システムから自動で取り出して自動で並べるロボットアームなど驚異的な展示がいくつもありました。何もかも全ての工場システムが自動化、機械化されていて、しかもそれを機械が人工知能によって学習する事で人間による作業と比べても全く遜色ないどころか遥かに高速でやれるような、完全オートメーションの工場がもう現実のものとなっているのです。

まさに「いやーもう人間必要ねぇな!」を地で行く世界です。

 

その他付記しておく事としては、会場内では昼間からピールが振る舞われており、海外のお客様なんかはビールをガンガンあおってから商談に行くような酒豪も沢山いたようです。斯くいう私と父も中ジョッキ一杯頂いてから見学&商談に参りました。

外国の方で一番多く見かけたのはやはり中国系の方でしたね。その他には英語もよく聞こえましたが、少々驚いたのは英語と同等かそれ以上の頻度でドイツ語(?)らしき言葉が聞こえてきた事です。機械系の業界ではドイツ、或いはスイスなどの精密加工業界が強いのかもしれませんね。他にもピチッとしたスーツ姿に色とりどりカラフルなターバンを頭に巻いたアラビア系の方々なんかも沢山いらっしゃって、実に様々な言語が飛び交う空間でした。日本企業の展示ブースではやはり多言語対応に苦慮している所は多かったようで、日本語と英語には対応できても中国語には対応できなかったり、日本語-中国語の通訳を専属で連れて歩いているような人もいました。

後は他には各ブース毎にキャンペーンガールやイベントコンパニオンのような美人さんを雇っていて、発表なども専門のウグイス嬢(?)的な人がやっていたので、必ずしも男だらけの空間というわけでもありませんでした。

 

非常に面白い展示を沢山みられてとても楽しかったです。機械工学業界が今どういう物を描いて、何を考えて装置作りしているのかが良く分かりました。化学屋としてその中に食い込む余地はかなり沢山あるというのが私の見立てで、化学者が関わっていれば更に幅が広げられるだろうなという部分は冒頭のヤマザキマザック株式会社様のプロダクトにもあるように色々な場面で見られました。今後の工作機械業界の更なる発展を期待すると共に、日本の製造業は少なくとも工作機械の業界ではまだまだ死んでないどころかまさに大発展の最中だという事を噛みしめていきましょう。

 

※楽屋裏トーク的な何か※

驚嘆すべき機械や技術が目白押しだったJIMTOF2014ですが、いやー、正直なところ、機械工学者の考えている事が意味不明すぎて付いて行けない部分は多々ありました。「こうすれば時間短縮」「こうすれば省エネ」等々色んな利点を実現するために彼らが日夜頑張っているのは百も承知ですが、化学屋としては「それ、材料削るより溶液中で合成した方が早くね?」と言いたくなってしまう所が多々あったのもまた真実です。要はトップダウン型の工作と併せて、我々化学屋が手掛けるボトムアップ型の工作というものがやがて工作機械の業界にも入ってゆくはずで、それをどう実現するかについては私たち化学屋も機械屋さんとちゃんと対話しながらプロジェクトを進行しなければならないわけですね。いやはや、物理は苦手科目でしたが、やはり物理学(物理工学)の粋を集めて作られる工作機械についても中々理解が苦しかったところは多々あります。機械工学に面白みを感じたのは真実ですが、同時に自分が化学系に進んで良かったと実感する現場でもありました。